札幌トモエ幼稚園:登園日誌

「ダメ」はつまらなくなるおまじない

3月になり、北海道にも春の兆しが見えてきました。
特に今年は例年よりも雪解けが早く、一足先に春になったようで、ちょっとお得感があります。日差しも照るようになると子どもたちは外で遊びたくなるようです。
足元がぐちゃぐちゃだと言うのに・・・。

 

「そと、(い)く」

うちの1歳児も、そう主張するようになりました。
ジャンバーを着せて玄関を出ると、そこには土方のおっさん・・・いえ、つるはしを持った園長がいたのです。

 

北海道に来てびっくりしたことの一つに、民家につるはしが置いてあることが挙げられます。これまでつるはしと言えば、工事現場のイメージでした。
それがなぜ個人宅に?首をひねるばかりでした。
「ああ、つるはしはこうして使うのか」と知ったのは、トモエ幼稚園で園長が玄関前の氷を割るのに使っているのを見たことがきっかけかも知れません。
玄関前が滑るのは園児たちにとってはもちろんのこと、大人にとっても非常に危険です。バスの見送りを兼ねて、午後になると園長は玄関前で氷を割っていることがあるのです。

 

息子は園長が氷を割っている姿を見て、園長のところへ行き、片手を前に出して「(貸し)て」と言いました。つるはしは先の尖った鉄の塊です。困った園長は、先端がなく柄の部分だけになった、いわゆるただの棒を持ってきて渡しました。

 

「こうやったらいいんだよ」

と園長は棒を氷にコンコンと突いてみせます。ひとまず受け取ってみた息子。
けれども何か違う。棒を僕のところへ持ってきて渡し、もう一度園長の前で片手を前に出して「(貸し)て」、と言いました。
根負けしたのか、あろうことか園長はつるはしを息子に渡したのです。

 

「重いから持ち上がらないよ」

何て言いながら笑っていましたが、ところがどっこい、意外と少し持ち上がったりするのです。おそるべし1歳男児パワー。それを見ていた小学生の男子が、

「危ないよ!」

と言って、息子からつるはしを取り上げようとしました。まあ、それはそうでしょう。確かにつるはしは1歳児が持つには大きく、危なっかしく見えます。
その小学生に対して、一歩も引かない息子。
その取り合いをしている方が危ないなと手を出そうとしたら、

 

「いいんだよ。園長見てるから」

と言って、園長が小学生を諭しました。
小学生はそれで納得したのか去っていきました。
それでも先端部分を素手で掴んで持ち上げようとする息子を見るに見かねてか、園長は

「どれ、じゃあ園長と一緒にやろう」

と言って、一緒につるはしを持ち上げて何度か氷を割って見せたのです。
息子はこれに満足して、園長につるはしを返し、園内へと帰っていきました。

 

確かに1歳児がつるはしを持つのは危険です。
「危ないからダメだよ」と言ってしまうのは簡単です。
しかしそうした場合、彼の「やりたい」という好奇心は潰されることになります。
ハサミもダメ、台に上るのもダメ、ダメダメダメダメ。
「ダメ」ってつまらなくするおまじないみたい。

「ダメ」という言葉を使わずに、危なくない方法で、子どもの好奇心を満たすことができたら素敵ですね。園長は最初に安全に遊べる代替案を提案しました。
しかしそれでは満たされなかったため、渡しました。そして注意深く見守っていたのです。許容範囲を逸脱しそうになった時に初めて、「一緒にやってみようか」と安全策を講じつつ楽しそうな提案をしたのです。

園長は一度も「ダメ」という言葉を使いませんでした。

 

ハサミなどの刃物やボールペンやフォークのような先端が尖ったものを持っているのを見ると、ついつい、僕も反射的に「危ない、ダメだよ!」と強く言ってしまいます。「ダメ」という前に、提案したり見守る努力を怠っていたなぁと反省させられました。

「ダメ」という言葉はまるでインスタント食品のようです。お手軽、簡単なんだけどそればかり食べていると、じわじわと内臓にダメージを与え、心身に不調をきたしてきます。どうしても見守る余裕がないときは仕方ないけど、意識して使わないようにしたい、そう思いました。

 

「あれはダメ」「これもダメ」

ダメダメ言われて育つと、本当は飛べるのに、翼をカットされた鳥のようにチャレンジができなくなってしまいます。僕自身がそうでした。ダメと言われることを恐れるあまり、自分が何をしたいのかわからなくなってしまうのです。成長すればするほど、ダメの呪縛は強くなっていくように感じます。親だけでなく学校や会社からも縛られていくから。

 

「危ない」というのは怪我をして欲しくない親心。それは否定するものではありません。
でも、だからと言って「やりたい」という子どもの好奇心を「ダメ」という言葉で否定していいはずがない。
「ダメ」の呪縛を断ち切って、「危ない」と「やりたい」のちょうど真ん中を取れるようになりたいなと思います。

 

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